浮世絵に見る、芸者さんたちの粋なファッションと文化のひとコマ。
「羽織って、もともと女性が着るものじゃなかったの?」
実は、その通り。でも——
その“常識”を変えていったのは、他でもない女性たちでした。
羽織は、もともと男性が袴と共に着用するために考案された上着。現代で言えば、スーツジャケットのような存在であり、典型的な男性的衣服とされていました。
江戸時代になると時代の流れとともに、まず芸者の間で羽織が取り入れられるようになり、やがて羽織は、芸者たちの手によって独自のスタイルへと昇華されました。羽織は、実用性と美的感性を併せ持つ象徴的な衣服として、文化の変遷を映す存在となったのです。
1. 袴を着た江戸時代の芸者たち
江戸時代、遊郭での洗練された存在感で名を馳せていた辰巳芸者(たつみげいしゃ)と呼ばれる芸者たちは当時の常識に縛られず、羽織をファッションや自己表現の一部として羽織りを着始めました。
やがてこの着こなしは「羽織芸者」と呼ばれるようになります。異端と見なされる可能性もあったものの、咎められることはありませんでしたので、次第に注目され、他の芸者たちの間にも広まりを見せていったのです。
2. 男装した芸者たち
別説では、遊女の活動が制限されていた時代、一部の芸者が男性名で名簿に記載され、羽織などを用いた男性的な衣装で登場していたという話も残っています。
このような大胆なスタイルは、現在の芸者文化における男性風の芸名や、女性による羽織の着用が広まる背景の一つとなったのかもしれません。
3. 芸者たちを寒さから守るため
明治時代、舟遊びが一種の流行となり、芸者は顧客とともに向島などへ舟で出かける機会が増えました。ただし、帰り道では顧客が途中で下船し、芸者だけが寒さの中を戻るケースも少なくありませんでした。
そうした実情から、防寒対策として羽織の着用が許可されるようにったという説もあります。
浮世絵に見る羽織姿
鈴木春信(1725–1770)の浮世絵には、羽織を自信を持って着こなす芸者の姿が描かれています。



座っている男性も美しい羽織を着用しており、当時のファッションの多様性を感じさせます。
女性にとって羽織は「伝統的」な装いか?
羽織は元々は男性用の衣装で下が、時代を経て女性たちがその意味を再解釈し、自分らしさや美意識を表すスタイルへと変えていきました。
これは、日本文化が時代の中で柔軟に変化し、新たな価値を生み出してきた、美しい一例と言えるでしょう。
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画像出典:
- 鏑木清方 浜町河岸 1930 東京国立近代美術館 © Nemoto Akio
- 鏑木清方 新富町 1930 東京国立近代美術館 © Nemoto Akio
- 鏑木清方 築地明石町 1927 東京国立近代美術館 © Nemoto Akio
- Suzuki Harunobu, Young Woman Reading a Letter, ca. 1764–72. The Metropolitan Museum of Art. Public Domain / Open Access. LINK
- Suzuki Harunobu,A Young Man and Woman with a Shamisen. Museum of Fine Arts, Boston. Public Domain. LINK
- Suzuki Harunobu, A Young Man and Woman with a Shamisen; Monk Saigyō, from a series alluding to the Three Evening Poems (Sanseki waka). The Metropolitan Museum of Art. Public Domain / Open Access LINK